つみきのおしろ
著者 祭樹 神輿
 
 わたしは、いつもひとりぼっち。
 学校からかえってきても、家にだれもいない。
 お父さんもお母さんは、ジギョウにシッパイしてヨニゲしたって大人の人が言ってたけど、わたしは子どもだからまだよく分からなかった。お姉ちゃんは、「遠いところにいっちゃって、もう会えないの」と教えてくれた。大好きなお姉ちゃんの言うことだから、きっとあってるんだとおもう。
 だから、本当はお姉ちゃんと二人ぼっち。でも、お姉ちゃんは夜まで帰ってこないから、今はひとりぼっち。
 でも、私はえらい子だからもんくは言わないの。お姉ちゃんは仕事でたいへんだし、大好きなお姉ちゃんにめいわくかけるのはいやだから。
 それに、わたしには友だちもいない。お父さんとお母さんがいないって言うと、いつも「おかしいんだ」って言われる。さらに、「ステゴ」とか「いらない子」って言っていじめてくるの。クラスの皆がわたしをつきとばしたりして。
 でも、わたしはえらい子だからもんくは言わないの。お姉ちゃんにめいわくかけたくないから、いつも家でひとりで遊ぶんだ。「そのけが、どうしたの?」ってお姉ちゃんはしんぱいそうに聞いてくるけど、わたしはいつも遊んでてころんだっていうことにしてる。
 お姉ちゃんが、わたしはえらい子だって言ってくれるから。大好きなお姉ちゃんがそう言ってくれるから。
 それにわたし、家であそぶのがきらいじゃないし。わたしひとりの家は、シーンとしてるから好き。
 だって、だれもいじめてこないし、わたしのつみきとおにんぎょうさんで、わたしの好きなようにあそべるから。
 体じゅうがいたいのも、こうしてればきにならなくなるから。
 たまに泣いても、だれにもきづかれないから……。
 えらい子にならないと、お姉ちゃんにきらわれちゃうもんね。
 だからわたしは、お姉ちゃんにほめてもらうために、おにんぎょうあそびをまたはじめる。
 手にもってるおにんぎょうさんはとてもきれいで、きずひとつなくて。わたしはそれがいつもうらやましくて――――
 
 ガチャッ。
「のりこ……」
 あ、お姉ちゃんだ! いつもはこんなにはやくこないけど、どうしたんだろう。
 でも、お姉ちゃんがはやく帰ってきてくれたことがわたしはすごくうれしくて、すぐきにしなくなった。
 ドタドタといそいでげんかんにはしってくと、お姉ちゃんがぼーっと立ってた。
「お姉ちゃんお帰りなさい!」
「のりこ……」
 また、お姉ちゃんがわたしの名まえをよぶ。
「? お姉ちゃん?」 
 なんだか、いつもとちがう気がした。いつものお姉ちゃんとちがう。
 いつもはビシっとしてるふくもヨレヨレだし、あたまもボサボサ。目のあたりもまっ赤だし。
 それに、なんでくびのところに赤いせんがあるんだろう?
「のりこっ!」
 お姉ちゃんはようやくわたしにきづいたのか、スーツのうわぎをなげだしてわたしにだきついてきた。
「お、お姉ちゃん……? い、いたいよ、どうしたの?」
 わたしのしってるお姉ちゃんのだきかたじゃない。おねえちゃんは、もっとやさしくだっこしてくれる。だから、よけいにこわい。
 そうおもったら、お姉ちゃんはハッとして、びっくりしたような顔でだきつくのをやめた。
 でも、すぐにかなしそうなやさしいかおになった。お姉ちゃん、なんでなきそうなのにわらってるの?
「のりこ……お姉ちゃんね、疲れちゃった」
「お姉ちゃん、つかれたの?」
 お姉ちゃんはいつもこんなこと言わないから、それはとてもふしぎだった。でも、つぎのことばをきいたら、そんなことぜんぜんきにならなくなった。
「だから、ね。お姉ちゃんと一緒にシアワセになろう?」
 シアワセ。それはすごくいいきもちになることばだった。
「シアワセ……?」
「そ、シアワセ。いまよりもずっとシアワセになろ?」
「わたしもいっしょに?」
「うん、のりこのいっしょに」
 お姉ちゃんは、わたしのことばにひとつひとつちゃんとこたえてくれた。
 でも、ほんとうはさいしょからこたえはきまってたんだ。
 だって、わたしはお姉ちゃんが――――
「わたしはお姉ちゃんが大好きだから、お姉ちゃんといっしょにいれたらそれでいいの! お姉ちゃんがシアワセになるなら、わたしなんでもいい!」
 ちょっとおしりがむずがゆくてそわそわするけど、でも、言えたことがすごくうれしくて。
 だから、わたしはお姉ちゃんにだきついた。いきおいがついて、お姉ちゃんがしりもちをつく。
「あ……のりこ……」
 お姉ちゃんは、なぜか声がふるえてた。わたし、なにかわるいことしたのかな。
 しんぱいになってお姉ちゃんの顔を見ると、お姉ちゃんはポロポロナミダを流してた。
「ごめんね……! お姉ちゃん、本当にごめんね……っ」
 それだけ言うと、お姉ちゃんはまたいつものえがおにもどった。
「お姉ちゃん、のりこが大好きよ」
 そういって、お姉ちゃんはかばんからほうちょうをとりだした。
 お姉ちゃんがわたしのこと大好きって言ってくれるときは、いつもおいしいごはんを食べさせてくれる。だから、すぐにりょうりのじゅんびをしてくれるんだとおもって、それがとてもうれしかった。
 だから、お姉ちゃんに、もういちど、こう言ったの。
「お姉ちゃん、大好――――」
 なんだかふしぎなかんじがして、とおくでつみきがくずれることがきこえた。
 
 
 
「――――なので、今日は傘を持っていったほうがよいでしょう。……では、つぎのニュースです。一〇月三日、、東京都I区にて、女性二名による自殺がありました。被害者は日高要(二五)と日高紀子(八)。死因は両者とも出血多量。調査によりますと、日高要氏は同日、付き合っていた男性から性的暴行を加えられ、また、それによって別れ話を切り出されたことに憤慨。日高要氏が務めている会社に何らかの嫌がらせを行っていたそうです。他にも、数多くの精神的問題があり、それによるものではないかと思われています。現場の馬場さん、そちらはどのようになっていますでしょうか?」
『はい、現場の馬場です。自殺の現場のほうはあらかた片付いているようですが、警察からの話によると、要さんが紀子ちゃんを正面から心臓を一突き。その後、自分も首を切った、とのことです。性的暴行やいじめなどはここ数ヶ月にわたってあったそうで、しかも二人暮らしということもあって、お金に関してはかなり逼迫していたようですね。周辺住民に話を聞いたところ、姉妹二人とも、何かしらの周囲からの迫害を受けていたことが分かっています。紀子ちゃんは学校でいじめられ、また要さんも仕事場でセクハラなどの嫌がらせを――――』
 
 
 
 
 
 
(お姉ちゃん)
(ん?)
(お姉ちゃんとふたりっきりだね。すごくしずかであったかいの)
(そうね。嫌なことなんか一つもないでしょ?)
(うん! お姉ちゃんといっしょにいるからすごくうれしい!)
(紀子がシアワセで私も嬉しいわ。これからはずっとずっと一緒で、ずっとずっとシアワセよ)
(やったあ! お姉ちゃんとずっとずっと、ずーっと一緒なんだ!!)
(そうよ、ずっと。ずー……っと)
(お姉ちゃん、わたしね……)
(ん?)
(あのね…………)
(うん…………)
(…………)
(…………)
(……)
(……)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 シ
 
 ア
 
 ワ
 
 セ
 
 だ
 
 よ


あとがき
初めまして、神輿っていいます。
なんだかプロフじゃあんなこと言ってますが、いきなりダークストーリーってどういうことかと自分でもツッコミたいんですがそれは置いといて。
作品についてですが、ほとんど紹介文とか内容とかで語られているので言うこともなく。
とりあえず、あれですね。初めてのジャンルでかつ30分なので大分手間取りました。推敲もほとんどなし。
しょっぱい小説となってしまいましたがorz最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。
 
追伸:つぎこそは熱いのを……っ!

Rhapsody In Blue