KSV
著者 囮禽 畔
 
KSVについてのレポート概略
 
 私がかつてまだ学生であった時分、親しくしていた生物学者がよくこう言った。
「生態系は一つの浪漫であると言えるね」
 当時の私は彼のその話を、自分の専門に対する溺愛だと心の奥で冷たい笑いを浴びせていたものだが、奇しくも同じ生物学者となった私は40を迎えようとしている今ようやく、彼の言葉に信憑性をもちはじめた。
 私のその、生態系を浪漫だと言わしめるに至った現象すら当時の私にとっては溺愛の一つに過ぎないのかも知れない。だが本当に、その現象は驚くべきことなのである。
 
 KSVとは、2017年ロシア人生物学者キンゼフスキー博士が宇宙空間に存在すると仮定した微生物、Kinsevsky space vampireの略称である。当時の文献は現在となっては、残されていないためどうして「仮定」であったのかすらわかっていない状況であるが、私達研究チームはKSVの捕獲、実験をくり返し興味深い事を発見した。
 宇宙船の奇妙な付着から、微生物を発見した。我々はその微生物―KSVのことである―に様々な実験を施した。例えばもう一度真空状態に戻してみたり、電気を流してみたりである。そんな中モルモットをKSVと同じケースに入れて観察を続けると、KSVがモルモットの体にへばりついて、血を吸っていることが明らかになった。
 結果血を吸わせたKSVと吸わせていないKSVでは能力的、生命力的に大差がないことを証明したが、とにかくKSVは吸血生物であることがわかった。私が悪趣味であったからか、それをspace vimpireと元あった名前―はじめはKinsevskyとだけ呼ばれていた―につけたしたのだがその発見以来たいしたことがわからない日々が続いた。あげくの果てに私は、吸血生物なのだからと十字架を近づけてみたりニンニクを入れてみたりと悪趣味かつ無意味な実験をくり返した。だがその無意味であるはずの実験は驚くべき結果をもたらす結果となった。
 なんとKSVは太陽の下にいると消滅してしまうのだ。だが宇宙空間では常に、太陽に晒されているはずだ。何故彼らは生き残っているのか。それをふまえて彼らの一生をまとめるとこうなる。
 KSVは誕生すると一週間とせず、すぐに繁殖期を迎え大量の子を産み落とす。その数は半端でなく数億という数である。それも雌雄を必要としない。増殖生物のようだ。そしてしばらくその行動を続けた後、太陽の光に体力がまけて死ぬ。子どもを生まなくなるかと思うとその後すぐである。小刻みに震えながら溶けていくのである。
 つまりKSVという生物は、一秒単位で生を生み出し生を喪う、生の縮図なのだ。


あとがき
とにかくKSVという思いつきをどうにか利用したかった事から生まれた作品。論文を書いたことのないお年なので正直文体としてはレベルが低いです。

Rhapsody In Blue