幸せ家族狂詩曲
著者 祭樹 神輿
 
1.( |||||)シ)`・ω・´)・;
「ぅぁ……」
 意識が最初に得たものは痛覚。そして白。
 耳には、定番の雀の囀り。
 まだ覚め切ってない頭だが、五体が朝を認めている。
(…………えーと)
 ぼんやりとしたまま、思考を反射的に動かす。
(う、俺の、部屋……)
 確か、今日は祝日だったはず。だからこそ、夜遅くまでネットサーフィンしてたわけで。その後、眠くなってそのまま布団に入ったんだったか。
 と、思考したことで脳に血液が回ってきたのか、次第に靄が晴れてきた。
 ねぼけ頭をフルドライブ、と。さて、とりあえずどうしようかな。
「……寝ようかなあ、うん」
「いや起きろよ」
 ゴス。
「〜〜〜〜〜〜っ!?」
 突込、衝撃、痛撃。
 見事な3連コンボに、俺は思わず素で悲鳴を――
「おおおおお前! 朝っぱらから人になんてことしやがるっていうか殺す気かああああああ!!」
 掛け布団を跳ね上げ、俺に蹴撃をかました張本人に向き合う。ていうか睨む。
 俺は寝起きが悪く、さぞガン垂れてるんだろうとは思うが……相手のほうはというと
「いや、起きないほうが悪いと思うんですがね。後、もう昼だし」
 まったく意に介してない。くそう、いつものことだからって馴れるのは良くないぞ。日常の刺激は幸福のスパイスであってだな……と、待て。今聞き捨てならない台詞がなかったか。
「え……待って。今、昼?」
「YES。morning」
 かったるそうに時計を指差す……一応弟、薔薇百合菊梅。中世的な顔立ちとクール&ニヒルな性格が校内でも人気だとか何とかいう話を――いかん、いつもながら話が脱線してきた。やはり起き掛けは辛いなあ。
「……ああ、もう12時か。てことは、もう手遅れかなあ」
「だね」
「あー、そうかあ。姉さん怒ってるだろうな」
 チック、タック。チック、タック。
 静まった部屋に、秒針がのんきに響く。
 20回ほど秒針の刻みを聞いて、はた、と我に返る。
「だあああああああああもっと早く起こせよおおおおおおおおおお!!」
 緊急事態だ。頭の中に、エマージェンシーコールがハウリング。
 布団をふっ飛ばし、超速で起き上がってタンスにダッシュ。菊梅に布団布団がかぶさったが、気にしているヒマはない。
 0.1秒でパジャマからジーンズに履き替え、Tシャツはそのままに部屋を出る。
「いや起こしたから。金色のハンマーとか使って」
 後ろから不穏当な発言が聞こえた気がしたが、階段を猛ダッシュで降りる俺――祭樹神輿の耳には届かなかった。
 
2.( ・x・)……>(`・ω・´;)   Σ(- -ノ)ノ
 台所。其は処刑場にて断罪所。
 普通の家族のような、一家団欒な台所など此処には在りはしない。今在るのは、笑顔という名の憤怒の形(ギョウ)。
 そして俺は、その形の所有者である彼女から、どうやって世界の平和を取り戻そうかを思案しているところだ。おお、頑張れ俺! 彼女に屈するな俺!!
「……」
 ニコニコ。
(く、ま、まだまだっ!)
「…………」
 ニコニコニコニコ。
(……う、あ……あぅ……)
「………………」
 ニコニコニコニコニコニコニコニ
「だーもうごめんなさいー! もう二度と寝坊とかしないから許してくださいー!」
 涙を目の幅いっぱいに流し、頭を抱えて眼前の人物に土下座した。
 とは言っても、テーブルに向かい合っているのでテーブルに頭をこすり付けただけだけど。
 だけど、目の前の人物……鏡柘榴姉さんは笑顔を止めない。喋りもしない。
 怖い。すごく怖い。閻魔も裸足で逃げ出すほどのオーラを感じる。でも表情は笑顔。万人の心を蕩けさせるほどのパーフェクトスマイル。
「ひぃぃ夏樹さん助けてぇー!」
 居ても立ってもいられず、横でジャガイモ剥いてる兄、朝霧夏樹を呼ぶ。
 流しに立っていた長髪の細身は、背を向けたまま顔だけを向け、
「あはは……私は姉さんの味方ですから」
 うん、いい笑顔だね兄さん。でも笑顔で死の宣告はどうかと思うんだ。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜」
 目の幅涙を流しながら、テーブルに突っ伏して呻くことしか出来ない。
 もはや打つ手なし。神様仏様、先立つ不幸をお許しください……。
 と。
「ただいまー」
 ガラガラガラっと、威勢の良い音と声が聞こえてきた。
 
3.(´−`)旦~~( ̄x ̄)ノシ(・x・)(`・ω・´;)|人゚)b
「あれ、静かな……って何で柘榴が怒ってるんだ!?」
「まあ、いつものことですけどね」
 台所にやってきたのは二人。兄兼家主兼大黒柱の音桐奏兄さんと、お茶と本を愛する弟の夏目陽。二人は、両手に白い買い物袋を提げている。
「兄さん助けてっていうか助けてもう助けて!」
「うわっ!?」
 待ってましたとばかりに、音奏兄さんに抱きつく。ガバチョって感じで。
 うう、神様仏様。見捨てないでくれてありがとう……!
 そんな俺の横を通り過ぎ、ポットからお茶を注いで飲みだす陽。この雰囲気で平然と過ごせるのは尊敬に値するよなあ。
「お兄様」
 芯の通った綺麗な音。困ったような声色は、それだけで魅力的である。
「柘榴?」
 奏兄さんが柘榴姉さんに向き直る。
 眉を八の字にした姉さんを見て、なるほどと苦笑した。
 いつも思うけど、こういう細かいところに気がつくのはさすがだよなあ。これで一安心。
「神輿、謝ってないだろう。じゃあ君が悪い」
「なっ!?」
 一瞬にして、俺の安心が17分割された。
「いや、謝ってはいる、けど」
 そして、思わず釈明する俺。無駄だとは分かっているけど、脊髄反射で動いてしまう。
 もちろん、それが通用するとは思っていない。
「じゃあ本気が感じられないんだろうね。柘榴が許さないって言うのはそういうことだよ」
 やはり。案の定、この通りだ。
 決して強く怒っているわけではない。だが、的確な言葉ゆえにザックリと心を断ち割る。
 端的な言葉の中に、経験と思考を重ねた重みがあるのだ。
「う、えと……確かにちゃんと謝ってはなかった、と、いうか……」
「じゃああなたが全面的に悪いんじゃないかと」
「う……く、確かにそうだから否定しがたい……嫌なところをついてきてっ」
 くそう陽め、こっちが色々必死なのに余計なことヲ゛ゴッ!?
「こらこら、そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
 頭が真っ白に……えーと、何が起きたのか理解できないというか。
 と思った瞬間、やっと事態が把握できた。
「くぅぅぅ……す、すいません」
 目の幅涙をこらえて、呆れ顔の奏兄さんに謝る。
 今の痛みと衝撃は、奏兄さんによるものだ。
 相変わらずの、地を割るかの如き威力。悪に厳しい正義の味方だ。
「謝るのは僕じゃないだろ。ほら」
 そう言って、奏兄さんがアゴをしゃくる。
 その先にいるのは、やはり柘榴姉さん。さっきとは打って変わって、真剣な、心配そうな表情でこっちを見ている。
「あ、その……ごめん、なさい」
 涙目を拭って、たどたどしく頭を下げる。素直な気持ちから、しっかりと反省の意をこめて。
「もう二度としな……あ、いや、またやっちゃうかもしれないけど、でも、もうこれ以上しないように頑張るし、気をつけるから」
 頭は、下げたまま。上げる時は、前を向ける時だから。
 と、柔らかなため息が一つ。控えめな吐息が耳朶に響く。
「もう、これじゃ私が悪いみたいじゃない」
「え、あゴメ――」
 ハッ、と思わず顔を上げ――しまった! まだ謝りもしてないって言うのに……
 が、そこに見えた表情は、予想とは違うもので。
「今度からは……ちゃんと、ね?」
 ウィンクをする目の前の女性は、いつもの柘榴姉さんで……こう、なんというか
 擬音で表現するなら
「ほんわかっ」
「?」
「あ、いや、なんでもないよ」
 思わず声に出てたらしく、疑問符を頭に浮かべる夏樹さん。
 小さい声だと思ったけど……何気に耳聡い兄を、声で制する。
 しかし、まあ、なんというか。
 そんな感じの姉なのである。そして、音桐兄さんと双璧を成す大人組でもある。
「え、と……あ、ありがと姉さん!」
 やっぱり、なんだかんだ言って優しいなあ……と、俺は内心感謝する。
 それがきっかけに空気が穏やかになり、周囲に笑顔が戻った。
「まあいいですけれどね、別に」
 そんな中、陽がなんとも皮肉げな台詞を吐いてきて……
「……なんだよ、悪かったって」
 さすがの俺も、眉間に皺が出来た。うむ、幾らなんでもカチーンと来るぞカチーンと。
「? 私はこの本に対して独り言してただけですが」
「は?」
 意味が分からず、俺の思考は一時停止する。
「いや、だからこの本です」
 陽が指差すのは、今しがた買ってきた本。帯には、「言霊大先生イチオシ! 魔法少女サディスティックバイオレンスっ☆――血みどろ湯煙タイフーン」などと書いてある。
「てか分かりづらいよ! そうならそうと言えよ!!」
 なんだこれは。怒っていいのか。いいんだな? いいいいいいんだなっ!?
「まあまあ、私の発言は全てネタですから」
「分かりづらいわぁ――――っ!!」
 横にあった使わないちゃぶ台をドガシャーとひっくり返す。やってられるかちくせう。
 と。
 
4.。。。(時・ω・)ノ( ’ ’)ノ (  ̄ω ̄)ノ
 がらがらがらっ。
「ただいま帰りましたー」
「ただいまー」
 声が二つ。
 春風と共に、朗らかな元気が伝わってくる。それは玄関から廊下を経由し、台所にまでやってきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様達〜っ」
 それに答えるのは、満面の笑みの夏樹さん。
 ほら兄さん、引いてる引いてる。二人して引いてるから。
「おやお帰り。遊希に宮城」
 そんな夏樹さんをぶみっと踏みつけ、我が道を行くかの如くやって来た菊梅。
 足の下で、目の幅涙を流す夏樹さんを完全無視。ううむ、さすがだ。
「あ、ただいま菊梅」
 柔らかなショートカットを揺らし、机に鞄を置く宮城。
 学生服に眼鏡が似合う、ほんわか優等生キャラって感じだろうか。中肉中背で、いいとこのお坊ちゃんにも見えるかも。
「今日はアレですよね。楽しみで、つい紙コップとか紙皿とか買ってきちゃいましたっ」
 こちらも、黄色のショートボブに眼鏡。小動物みたいな背格好にセーラー服を翻し、手に持った買い物袋を胸まで上げる。
 宮城と違って、どっちかというと「ほにゃん」という擬音語が似合うかな。万年春のような笑顔が、学校での人気の高さを納得させる。
「おー、買ってきたんだ。えらいえらい……のは、いいんだけど」
 愛する兄弟を迎えようと、足を踏み出そうと、したんだが……
「さて。なんでここにいるのか聞きたいんだけど、OK?」
「ななななんですか! 別に何もしてないですよ!? ええ!」
 玄関に辿り着くと、なんかオカシな奴がいる。
 黒い長髪を後ろで縛った男は……まあ、うん。明らかに狼狽しているな。。
「うん、まあ、何もしてないな、確かに。じゃあ、今からか?」
「ははは何をそんな」
 目の前の男、時雨司……年は、最年少の黒島宮城や作楽遊希と同年代か。身長も宮城より低いぐらいで、学生服も同じものだし。
 あどけない顔だが、妙に天然臭が混じってるのは……まあ、いいか。
 というか、超汗だくだよ君。
「まあ、何をするにしても追い出すけどな」
「テメエ!?」
 ハハハ年長者の俺にテメエなどと。ネタだと分かってても容赦しないよボカァ。
 むんず、と司の襟首を捕まえ、玄関に移動。
 で、玄関の傘立てに刺さっている竹刀を装備。
 よく使うからここにおいてあるんだけど……やっぱり今日もか、と嘆息。
「ま、まあ落ち着きましょう兄さん」
「はいはい、んじゃ」
 竹刀を握って腰ダメに。剣道の構えではなく、野球のフォーム。
 それを一気に解き放つ。
「飛んでこぉ――――――――いっ!!」
 グアゴラガラキーン!
「畜生――――――――ぉぉぉぉ……」
「おお、飛ぶ飛ぶ。さすが時雨ウィング装備」
 鳥人間コンテスト優勝者だけあるなあ。と、額に手をかざして見送る俺。
 こうやって星にするのも何度目だろうか。最早日常と化している。
「さて、恒例行事が終わったことだし、行こうか皆」
 と、振り向けば奏兄さんが。
 両手には漆輝く重箱が。後ろには、それぞれ準備した姉弟達が。
 そこで、やっと俺は大事なことを思い出した。
「と、もうこんな時間か。ごめん、すぐ準備してくる」
 そうだそうだ、ドタバタしててすっかり忘れてたけど、今日は――
 
 
5.(´−`)旦~~(  ̄x ̄)( ・x・)( |||||)( ’ ’)(  ̄ω ̄) (`・ω・´*)
 さら……と、青と桃の風が頬を撫でる。
 昼も軽く過ぎたが、それでも新春の空気は変わらない。心地よくて、逆にくすぐったい位だ。
「わあ……」
 遊希の感慨が、背中越しに聞こえる。
 耳だけで会話を拾うと、どうも今風に乗った花びらが、オレンジジュースに入ったらしい。
 こういうのも風流でいいかな。実際、遊希も嬉しそうだし。
 と、ガサガサと音が聞こえたので、俺は肩越しに後ろを見やる。
 遊希だけではなく皆も例外ではないらしい。ブルーシートの上に乗った皆が、一斉に立ちだす。
 あるものはそのまま。あるものは靴を履き、柔らかい大地を踏みしめ。またあるものは、気の幹に寄り添い。
「きれいですね」
 夏樹さんが、紫陽花のような微笑を。
「おー」
 菊梅が、野薔薇のような笑みを。
「うんうん、よかった」
 音桐兄さんが、向日葵のように頷き。
「まあ、食べ物が花びらまみれになったわけですが」
 悪態をつきつつも、陽が百合のような微笑み。
「いいじゃないですか、ちょっとぐらいは」
 まあまあとなだめる宮城は、菫のように目を細め。
「あはは……でも、こういうのもいいかも〜」
 と気楽に答えるのは、柘榴姉さんの芍薬の笑顔。
「そうですね……ステキです」
 目を潤ませる遊希は、タンポポを髣髴とさせる。
 言葉の方向には、俺達を包むような、大きな桜。
 確かに、美しい。
 だが。
 俺は桜を背に、ゆっくりと振り向く。
 そこには、笑顔、笑顔、笑顔。百花繚乱も裸足で逃げ出すほどの。
 俺の眼前で花開く蕾たちは、目の前の桜にも負けはしない。
「うん」
 掌を拳に。今を実感するように。
「俺、良かったよ。皆と家族で」
 唐突過ぎたかな。普段思っていたことを口に出したけど。
 皆はというと、さすがに驚いたみたいだが、
「うん」
「まあね」
「おう」
「はいっ」
「ええ」
「はい〜」
「ああ」
 先ほどと同じく……いや、より明るい笑みで答えてくれた。
 ああ、俺は幸せだ……。こんなにもいい仲間がいる。家族がいる。
 春でも、夏でも、秋でも、冬でも。俺は過去も未来もそう思っていくことなんだろう。
 だから、俺は証を立てたいと思う。過去に誇れるように、未来に届くために、そして、
 今を楽しく過ごすために。
「よっしゃあっ!」
 拳と声を天に突き上げ、俺は、
 
 桜に負けない、笑顔を浮かべた。
 
 
(- -ノ)人|人゚)人(´−`)人(時・ω・)人( |||||)人(`・ω・´)人( ̄x ̄ )人(・x・ )人( ’ ’ )人( ̄ω ̄ )
 
[ Fin ]


あとがき
実際書いてて楽しかったですね。(色々な意味で)自分の理想系の一つが作れた感じです。
ちなみに、実際にキャラが本人とあっているかどうかは……本人次第ということで。

Rhapsody In Blue