くだらないひとコマ
著者 夢幻 言霊
秋薫る屋上での一幕である。
鉄の柵に腕をかけ、眼下を見下ろすと運動場を走っている奴らがいる。
今日は運動会らしい。
くだらねぇ。
空を眺めると、どこまでも青が続いてやがる。
くだらねぇ。
楽しそうに声あげやがって。
くだらねぇ。
お前ら何歳なんだよ。わーわーきゃーきゃーしやがって。はっ、いいねぇ、お子ちゃまな奴らは。単純なことで笑ったり喜んだりできてよ。俺なんかついてけねぇぜ。あんな幼稚な奴らにはよ。なに、高校生にもなってあんなくだらねぇことで騒げるってこと自体がさ、なんか、問題あるじゃねぇの。
精神年齢の低下ってやつ? 大人になりきれない大人?
あー、それだ、絶対それだ、それ関係してる。
高校生にもなって運動会なんぞで心騒いじゃってる時点でもう駄目なんだよ。終わってるな。死んでる、死んでるよ。大人としての理性ってやつが。俺は違う。すっげぇ冷静。死ぬほど冷静。ぴちぴちしなくなった魚ぐらい冷静。うわ、活き悪ぅ。そういや、昔言われたなぁ。おメエの眼は死んでる。死んだ魚の眼だって。はっ、上等だ。俺にピッタリだ。こんな世の中生きる気しねぇんだよ。あれだ。なんだったら、いまこっから飛び降りてやろうか? おっ、いくか、逝っちゃいますかぁ? ちょっと前の俳優みたいに、パッとチョチョッと跳び込んじゃいますか、新世界。いいねぇいいねぇ。よし逝こういま逝こう。
片方の足が柵を跨いじまった。
広がる下界。結構壮大。
……迫力あんなぁ……下の方から、風吹き上がってくるし。
もう片方の足がビビッて地面に貼りついちまってる。
……こりゃあれだ……なんて言うの……あれだな……なに? ……とりあえず……一時中断しとこうぜ。ほら、神のお告げで「お前は神に選ばれし者だ。生きろ」とかそんな声が聞こえたとか理由つけて引き返しとこうぜ。いいねぇ。そうだよな、俺まだ死んじゃいけねぇよな。なんたって、神の声が聞こえるような選ばれし者だからな。ゲームで言えば主役じゃん。死ぬわけにはいかねぇよなぁ。
跨いだ片足を戻そうとあげた瞬間――
びゆうぅぅぅぅぅ。
崩れたバランスはそう簡単には戻らない。
なんでこんなときに気持ち良い風が吹くんだよ!!
風に煽られおもいっきり柵の外側に投げだされちまった。でもさすが俺だ。柵から手を離さなかったおかげでなんかうまい具合にぶらさがってやがる。さすが神に選ばれし者? ……ただ悪運が強いだけか……
とりあえず柵をしっかり握った。命を大事に。むっ、ゲームってやつは、意外に良いこと言ってやがるな。まぁ、今の状況では、どうでもいいことだけどな。
俺の脳は使えねぇ。これがゲーム脳ってやつか? 知らねぇよバカ。
しかしあれだ。この状況をなんとかしねぇとな。
あっ。
そうか、こんな状況だ。下にいる奴らが気づいてるかも。
下を見た。
全員、運動会に夢中だった……
……運動会なんて……嫌いだ。
死ぬか? 離すか、この手? あー、なんだ、こんなときに腹が、減った。
食いてぇ。なんでもいいから食いてぇ。これがあれだ、最後の晩餐になるかも知れねぇからな。なに、俺キリスト? いいねぇ。やっぱあれだ、神に……もういいかぁ、飽きた。
さて、この状況どうするかだな。風きついなぁ。ぶらぶら鯉のぼりみたいなっちまってるし。
やねよーり たーかーい こいのーぼーりぃ♪
……死ぬか。
こんなときに限って、雨とか降ってくるわけで。
うわ、やべぇ。握ってる手が滑るだろうが。ざあざあ言ってんじゃねえぞこの野郎。
あっ。
こんだけ強く降ってんだ。運動会は……うわぁ、晴れてるときより盛り上がっちまってるじゃないか。なに、雨の中真剣に競技する姿がカッコいいとか思ってんのか。くそ、この単純野郎どもが。そんなことより俺のこの姿にいい加減気づけよ。頼むよ……
あぁ、腕痺れてきた……もう、離しちまうか……こうやって、眼ぇつぶって……手を離しちまえば……
「なにやってんの、あんた?」
離した瞬間、手首に強い感触を感じた。
「…………あ、新手の瞑想?」
ほら、宙に浮くかなーなんて……
「……離そっか?」
それだけは勘弁してください。眼でおもいっきり懇願した。
彼女が俺を引き上げる。どんな力してんだよ。
とりあえず、ストレートショートカットにおっきなお目めが男心を誘う、そんな顔だ。体つきも細くてちょっと胸も手のひらサイズ? いまのは内緒だ。
「次、あんたがでるパン食い競争だよ」
「あっ、マジで」
ちょうど腹減ってたんだよなぁ。よし、いっちょ一着取ってやっか。
「なんかやる気でてるねぇ」
「当たり前だろ」
俺、目立つの好きだもん。
気合入れつつ、ドアに向かって歩きだした。
えっ?
なんか、文句ある?
あとがき
後書き書けって言われました。
実際はすごく前向きに取り組んでますけど、キャラ的に後ろ向きなので嫌々書いている設定でお願いします。
さて、後書きなんですが……
この作品、後書きするほど思い入れはないですよ……
とりあえず、主人公の愚痴を楽しんでいただければそれでいいかなぁ、と。
まぁ、そんな感じです。
以上。